とれいん工房の鉄道省私文書館

鉄道関係の情報を中心としたブログ。主に未成線や廃線、鉄道史、宮脇俊三、関西の鉄道、ローカル線など鉄道趣味の外縁部を紹介します。

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宮脇俊三書評40作 (6)「シベリア鉄道9400キロ」

 戦前の時刻表を捲ると、ため息の連続である。格調高い急行や特急群。拓殖鉄道や簡易軌道、軽便鉄道などの超ローカル鉄道。あの世代に対する同時代感覚がない私たちにとっても、憧れと羨ましさはひとしおである。
 そんな中でも、マニア心をかき立ててくれるのは、「歐亞連絡」の項である。東京駅を特急「富士」で出発し、下関、釜山、京城、平壌、新京、満州里、知多を経て莫斯科まで11日間かかったという。日本と中国大陸、そしてヨーロッパが一続きに繋がっているんだ……たぶん宮脇少年は、時刻表の上で現実の世界と異世界とが連続しているということに快感を覚えると共に、非日常的世界へと想像力を働かせていたのだろう。

シベリア鉄道9400キロ シベリア鉄道9400キロ
宮脇 俊三 (1983/05)
角川書店
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 幼少の頃から憧れ続けてきルートと言うこともあり、他の海外物とは異質の雰囲気が文面に漂っている。80年代には、北回りの飛行機だとモスクワまでわずか10時間でたどり着けるようになった。ヨーロッパ旅行の有り難みは薄れてしまった。だからこそ地べたを這いずりまくって東方へ向かう意味があると思う。

 内容はいつもの宮脇節が満載である。旧ソ連を題材にした旅行記って、ソビエト共産党を盲目的に信じ込んだ作品か、その官僚主義的な側面を強調したモノばかり。どこか色眼鏡で見た描写がほとんどだった。そのあたりのトラブルもユーモアに置き換えて、旅の肴としてうまく料理されている。
 ソビエト共産党政権下での旅と言うこともあり、「時刻表」を手に入れることができない。軍政下での鉄道の位置づけを考えると、当たり前とは当たり前。これには宮脇も戸惑いを隠せないようで、なんとか正確な発着時間を聞き出そうとするが、周りは誰も相手をしてくれない。ただ淡々と景色が流れていく。
 また、編集部のヒルさんやSKDの面々、愛すべき乗務員たちのエピソードも印象深い。

 肝心要のシベリア鉄道に乗車するまでの描写で紙面の半分を割いているのはアンバランスな気もする。なんで準備段階やバイカル号の話ばっかりなのかってね。でも、「旅行には前戯が大切」なんて珍妙な信念を持っている宮脇ならではの一流の演出なのだと思う。

 とにかく、『シベリア鉄道9400キロ』が発刊された後、ナホトカからモスクワへ向かうルートの再評価がなされ、ただシベリア鉄道に乗車するだけというツアーなんかも企画されるようになった。

 あれから20年。ご承知の通りソビエト連邦は崩壊してしまい、経済混乱でシベリア鉄道の輸送需要は落ち込んでしまった。車内や町中の治安も悪化の一途を辿っているという。
 日本から欧州まで10万円を切る値段設定の格安航空券が出回り、わざわざ一週間もかけて鉄道に乗り込むメリットは薄れた。日本人や白人のバックパッカーにお馴染みだった横浜発ナホトカ行きのバイカル号も廃止されてしまった。でも、外国人に評判が悪いバウチャー制度はまだ残っており、あまり自由に行動できない。

 でも、やはりシベリア鉄道の響きは魅力的である。かくいう私も、98年2月に北京でロシアビザを取って、ウランバートル経由でモスクワへ向かったことがある。ロシアで一山当てようとする中国商人の行商列車と化し、雰囲気はかなり荒んでいたが、それもまた時代の流れなのだろう。
 さすがに7日間も乗りづめだと途中で飽きがやってくるんじゃないかと危惧したけど、ツンドラ地帯を黙々と進んでいく風景もまた一興だった。食堂車の品揃えがイマイチな上に割高だったのだけは誤算だったが、2時間毎に停車する小駅のホームで買い求めた魚の干物やピロシキが絶品だった。そうした非日常的な風景が毎日続くと言うこと自体が快感だった。未明に氷点下30度のモンゴル国境を抜けたことと、その翌朝バイカル湖畔でダイヤモンドダストを体験したことは今でも忘れられない。
 まあ、何はともあれ、社会主義の解体って何だったんだろうか……てことをいまさらながら考えてみるにはいいきっかけになるのでは。ホント、これを読んでいると、日本とヨーロッパって地続きなんだなあてことを実感すること間違いないと思う。

         【1983年 角川書店】
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  1. 2006/09/11(月) 21:47:39|
  2. 宮脇俊三の話

プロフィール

もりくち

Author:もりくち
関西在住の鉄道マニア兼バックパッカー。「とれいん工房」として同人誌を多数発行。2001年に「鉄道未成線を歩く 私鉄編」、2002年に「鉄道未成線を歩く 国鉄編」をJTB出版事業局(現、JTBパブリッシング)から刊行しています。日々の話は、下のリンク先にある「とれいん工房の汽車旅12ヵ月」へ。連絡先はmalmori●nifty.com。

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