とれいん工房の鉄道省私文書館

鉄道関係の情報を中心としたブログ。主に未成線や廃線、鉄道史、宮脇俊三、関西の鉄道、ローカル線など鉄道趣味の外縁部を紹介します。

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宮脇俊三書評40作 (7)「殺意の風景」

殺意の風景 殺意の風景
宮脇 俊三 (1985/04)
新潮社

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殺意の風景 殺意の風景
宮脇 俊三 (2006/05/11)
光文社

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 日本のトラベルミステリーには時刻表をトリックの素材に扱った作品が多い。松本清張や森村誠一など大御所しかり、西村京太郎や辻真先もしかり。その存立の基盤となっているのは、複雑怪奇のダイヤグラムの中で時刻表の数字が正確に守られている……という日本なりの特殊事情があってからこそのことである。ヨーロッパやインドなんかではまずあり得ない話だ。
 ただ、同種の作品が乱立した結果、トリックの持つインパクトが弱まっているのも現実。突拍子もないネタを羅列するだけで物語に工夫を凝らした形跡のない作品がほとんどである。てなこともあって、ミステリー小説が一大ジャンルを形成している今日、その読み手の大部分は鉄道系の作品に見向きもしない。偏屈者の多い鉄道マニアも鉄道描写がいい加減な鉄道ミステリーに興味も示さない。

 だからこそ、宮脇がミステリー作品を発表する……と聞いたときは驚きもした。時刻表に造詣が深いことは重々承知だが、いまさらそれをトリックに使っても二番煎じなんじゃないの。そもそも鉄道紀行とミステリー、そこで求められる才能は別種のものじゃないのとも感じた。が、その心配は杞憂だった。
 確かに、本作はミステリー作品である。鉄道も当然のことながら出てくる。ただ、それはあくまでも物語設定の「お約束」として借用しているだけであり、本筋を構成しているものではない。
 さらに不思議なことに、ミステリーの醍醐味とされる殺人シーンが存在しない。トリックらしいものも表現されているが、それが成立しているかどうかも怪しい。時刻表を使ったネタも3編ほどあるのは鉄道マニアとしては嬉しいが、それ自体は結末とは無関係なまま尻切れトンボに終わる。表題通り、「殺意の風景」で終わるのだ。
 とにかく、「殺人」や「トリック」、そして「鉄道」や「時刻表」と言った要素がほとんど有機的に絡んでいない。かなり意図的にそうした要素を外している。お得意の必殺技に物語のカタルシスを預けるのではなく、あくまでも「殺意」を感じた登場人物の心理描写に徹しようと試みている。
 ある時は殺人の気配に苛立つ被害者。ある時は計画実行前の高揚した加害者。そんな彼らの不安感を最大限に膨らませて物語が仕立て上げられている。いや、正確に言うと、18編いずれも、事件の結末が描かれないまま唐突に終わっている。登場人物たちは加害者にも被害者にもなっていないわけだ。すなわち、そこで描かれている不安感はあくまでも登場人物たちの妄想に過ぎないということになる。それが、物語の持つ不安定さと共に、味わい深いバランスを醸し出している。

 ただ、そうした手練手管は鉄道好きにとってはあまり関心がないこと。あまりマニアの間では話題にならなかったが、ミステリーに興じる連中の一部からは「鮎川哲也とロアルド・ダールを融合した奇作」と多大な絶賛を受けた。
 玄人受けする複雑怪奇なストーリーにせず、登場人物の一人称による分かりやすい語り口で書き進めたことも評価が高い。殺意の舞台となっている風景描写はいつもの紀行作品の味わいを保ってるのだから文句の付けようもない。泉鏡花賞を受賞するだけでなく、直木賞の最終選考候補にもノミネートされている。それだけの力量が文壇でも評価されたわけだ。
 となると、その続編も読みたかったのだが、その後宮脇がフィクションに挑戦する機会は一度もなかったのが残念である。

 最後に一言。確かに鉄道ネタは皆無だけど、宮脇作品でお馴染みとなった風景がいろんなところで登場してくるのも興味深い。
 たとえば第6話(高千穂峡)や第11話(鵜ノ巣断崖)での描写は『汽車旅12ヶ月』と共通のイメージを持っている。第10話(松之山温泉)のエピソードは『線路のない時刻表』での北越北線(現・北越急行)取材の成果を拝借している。第15話(日和佐)での叙情的なウミガメの産卵シーンは『終着駅へ行ってきます』でも違う文脈で語られている。他の紀行もいろんな箇所で姿を変えて登場してくる。それを見つけるのも宮脇フリークとしての楽しみであろう。
 そして、見知らぬ男と出会った女性の戸惑いを描いた第9話(餘部)。これって、宮脇が中央公論社に入社したときの試験で論文の代わりに提出した短編小説がモチーフとなっている。ある意味では、宮脇作品の原型となる作品でもある。詳しくは『私の途中下車人生』を参照されたい。

          【1985年 新潮社】
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  1. 2006/09/12(火) 20:49:57|
  2. 宮脇俊三の話

プロフィール

もりくち

Author:もりくち
関西在住の鉄道マニア兼バックパッカー。「とれいん工房」として同人誌を多数発行。2001年に「鉄道未成線を歩く 私鉄編」、2002年に「鉄道未成線を歩く 国鉄編」をJTB出版事業局(現、JTBパブリッシング)から刊行しています。日々の話は、下のリンク先にある「とれいん工房の汽車旅12ヵ月」へ。連絡先はmalmori●nifty.com。

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