とれいん工房の鉄道省私文書館

鉄道関係の情報を中心としたブログ。主に未成線や廃線、鉄道史、宮脇俊三、関西の鉄道、ローカル線など鉄道趣味の外縁部を紹介します。

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宮脇俊三書評40作 (8)「線路のない時刻表」

線路のない時刻表 線路のない時刻表
宮脇 俊三 (1986/04)
新潮社

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全線開通版・線路のない時刻表 全線開通版・線路のない時刻表
宮脇 俊三 (1998/02)
講談社

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 建設中の鉄道線を見るのは楽しい。未完の白いコンクリート橋、掘削途中のトンネル、足場が組まれただけの駅舎予定地……完成後の姿を想像するだけで心が躍る。
 我々の愛すべき鉄道ってのは、経済性やなんやらでリアリズムの世界に生きているので、なかなか自分の思いは通じにくい。しかし、建設中の鉄道の場合、現実として形になっていない分、いろいろと妄想を働かすことのできる余地が残っている。現実の矛盾を忘れ、自分が夢見る風景だけをそこに再現することができる。後に鉄道ネタを連発する川島令三氏なんてヒトは、そのエクスタシーだけで文章を売っているのだからある意味では凄いヤツである。けど、そんな横恋慕は悪夢にもなりかねない。彼なんてまさにそのジレンマに陥っている。

 ただ、工事の途中、放棄されてしまう鉄道物件もある。その代表的な例が日本鉄道建設公団の工事線である。80年に施行された国鉄再建法の影響で、工事そのものがストップしてしまった。採算が取れる見込みがなかったからである。十億円を越える赤字を抱えた国鉄から、過疎地のローカル路線を経営するだけの体力は失われていた。突然の決定に、土地を提供したり賃貸したりして協力してきた地元に動揺が走る。

 それは鉄道マニアも同じである。別に開業しなくても直接的な利益はないが、なんか手前勝手に恋いこがれていた相手に突然振られるような気がして、何だか居心地が悪い。
 その空白を埋めるために書かれたのが、鉄建公団工事線の建設現場を訪れた本書になる。
 いつもとは流れる空気が異なる。対象が対象だけに関係者を取材しなければ話にならない。赤の他人が跡地を勝手に歩くことができないからだ。

 はっきり言ってしまうと、80年代当時の状況を考えれば新たに鉄道建設するだけの必要があったのかどうか疑問ではあるのだが、過去何十年のしがらみを考えればそれを言い出せない雰囲気がある。鉄道建設成金ってのもいっぱいいる。こうしたローカル線問題を突き詰めていけば、「過疎地をどうしていくのか」という今日的課題に繋がっていくわけだからややこしくなってくる。建設現場の客観的な状況を見ていると、そこで夢を語ることは難しくなる。
 そうした矛盾を抱える現場を、宮脇は歩き続ける。これまでの極楽トンボ的な作品とは異なり、少々ほろ苦いエピソードが続く。

 返ってくる言葉も厳しい。「せめて鉄道の一本ぐらい敷いてくれてもいいじゃないですか」(北越北線の十日町市長)、「いいんですよ。もうやることないんですから。」(智頭線建設担当者)、「鉄道が好きで、ここにお見えになったのでしょうが、好きとこの問題はちがいますぞ。」(阿佐西線の宿毛市担当者)……建設現場の肉声は我々マニアの議論のむなしさを際だたせる。

 建設賛成、建設反対どちらかの立場に付くのは簡単だが、そんなアジテーションは読者も宮脇本人も望んでいない。現実のしがらみに紀行そのものが飲み込まれかねないからだ。そうしたポイントから距離を置きつつ、空回りする期待と現実との間に横たわるギャップを埋めるべく、鉄道を待つ人々の声をユーモアを交えながら拾っていく。
 いつも以上に饒舌を排したバランスは見事ではあるけど、その筆の進み具合はいつになく重い。「開通したら乗りに行こう、その日を待ち望んでいる自分」を認識しているものの、それを具体化するのが困難であることを自覚しているからだ。
 そして、巻末に添えられている「宮脇俊三作・国鉄非監修」の架空時刻表。いきなり現実から夢の世界へと飛躍していく。マニアや地元の方に対する読者サービスの側面もあろうが、夢と現実をシンクロさせることで自分の欲望をささやかに埋め合わせようとしているのであろう。「線路のない時刻表」という題名がここで効いてきている。

 それでも多少救われるのが、ここで取り扱った6路線がいずれも第3セクターとして再生し、開業に漕ぎつけることができたと言うことであろう。各路線とも、宮脇の想像を超える運転本数が設定され、黒字を達成している路線もある。喜ばしい限りである。本書ラストに掲載されている「『三陸鉄道』奮闘する」と言う文章には、新たに登場したローカル鉄道の奮闘を素朴に喜んでいる情愛が行間から溢れ出ている。
 個人的には、未成線の持つ不可思議な魅力を教えてくれた作品として印象深い。これを読んだ頃の妄想が膨らんで編み出されたのが、『鉄道未成線を歩く』(JTB)になる。担当編集者を通じて宮脇本人にも届けられたらしいが、ニヤニヤするだけで特に感想は漏らさなかったようだ。ちょっと残念。

          【1986年 新潮社】

鉄道未成線を歩く (国鉄編)  JTBキャンブックス 鉄道未成線を歩く (国鉄編) JTBキャンブックス
森口 誠之 (2002/05)
JTB

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  1. 2006/09/13(水) 21:18:40|
  2. 宮脇俊三の話

プロフィール

もりくち

Author:もりくち
関西在住の鉄道マニア兼バックパッカー。「とれいん工房」として同人誌を多数発行。2001年に「鉄道未成線を歩く 私鉄編」、2002年に「鉄道未成線を歩く 国鉄編」をJTB出版事業局(現、JTBパブリッシング)から刊行しています。日々の話は、下のリンク先にある「とれいん工房の汽車旅12ヵ月」へ。連絡先はmalmori●nifty.com。

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