とれいん工房の鉄道省私文書館

鉄道関係の情報を中心としたブログ。主に未成線や廃線、鉄道史、宮脇俊三、関西の鉄道、ローカル線など鉄道趣味の外縁部を紹介します。

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宮脇俊三書評40作 (13)「夢の山岳鉄道」

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 日本の名だたる観光地を巡っていると、ため息をつくことが多くなる。クルマで埋まっている道路、駐車場。環境破壊なんて言葉をいちいち出さなくても、こうした排ガスの列が日本の原風景を台無しにしていることは一目瞭然である。でも、そんな彼らによって潤う人たちに対する配慮か、クルマの走行を規制することはまずあり得ない。
 そんな百害あって一利なしの自動車施設を引き剥がして、代わりにスイス風の登山鉄道施設を作ってしまえ……というのがこの本の趣旨になる。

 前提がはっきりしているから、論旨も明快である。クルマに比べると鉄道の輸送量は桁違いに大きい。駐車場はいらないし、老いも若きも気軽に楽しむことができる。路盤の幅も狭くて済むから、失われた緑を回復するのも容易である。排気ガスが出ないから環境保全の面でも優れたところが多い。と、今度は「自然保護」という大義名分を見方にして、問答無用で観光鉄道を敷設しようと妄想する。上高地に始まり、富士山、朝熊山、屋久島、比叡山……と各地の観光地に次々と登山鉄道が誕生する。

 個々で検討してみると、勾配がきつすぎるんじゃないかなあとか、ここに鉄道を造ると環境が台無しになるんじゃないかなあとかの感想も出てくるけど、それはそれ。その手の無粋な批判は先刻承知なのであろうが、これは妄想だよ、と言い切ることで、読者は娯楽エッセイとしてその論調を素直に楽しむことができる。どんなに言葉で誤魔化そうとも、しょせんは鉄道マニアの戯言に過ぎないってことはもちろん認識しているからであろう。
 比叡山鉄道の項は、登山鉄道計画の「敵」となる奥比叡ドライブウェイの事務所を訪れるところで締めくくられている。応対した担当者は「ドライブウェイをつぶすというお話ですか。弱りましたなあ」と苦笑いしながら、宮脇の妄想に付き合ってくれる。そして、「互いに苦笑しながら、現実と夢を語り合うのは、ぜいたくで楽しい時間でだった」との言葉で終わっている。単行本の帯には「鉄道愛好家究極の本」とあるが、その宣伝文句もあながち大げさではないと思う。

 そして、宮脇の妄想を通して語られる、観光地の現状ともの悲しさ。それを何とかしようと空手形を振り続けることの空しさ。かといって、川島令三氏のように無粋に「べき論」を振り回すのでもなく、かといって厭世的になって嘆くのでもなく、自分の妄想を提示することで何かを語りかけようと試みる。

 『時刻表2万キロ』に始まった宮脇流「時刻表極道の物語」もここまで来ると鬼気迫るものがある。現実の時刻表や鉄道を通して語ることが難しくなった鉄道紀行を「夢」という世界を通して伝えようとしている。その絶望的な夢の果てで「希望」を振る舞うことの勇気に、一人の読み手として、そして書き手として尊敬に値するものがある。でも、その「夢」の先に何が待ち受けているのだろうか。
 類似のネタでお茶を濁すことが極度に嫌いな宮脇が新たな視点で鉄道紀行を紡ぐのは難しいんじゃないか……連載をまとめた単行本を読んだとき、ほぼ直感的に思った。

 初版が出た93年にはめぼしいローカル線のほとんどが消え、重厚長大的な長距離列車も淘汰され、そして何より国鉄そのものが解体されてしまった。宮脇の鉄道旅行を支えた要素がほとんど失われてしまったのだ。
 語るべき言葉がなくなった後、どのように展開していくのか。どちらかというと不安を抱きながら、宮脇の次作を待ち続けた。だが、宮脇ファンの私を魅了するような著作には、残念ながら出会うことはなかった。
 「本書が宮脇サンの鉄道マニアに贈る遺書のように見えるのは気のせいだろうか。」……これは96年末に『夢の山岳鉄道』の紹介文の最後に私が書いた文章である(とれいん工房「宮脇俊三の世界」)。そして10年後、宮脇逝去の報を聞いたとき、この言葉は現実のものとなった。

       【1993年 日本交通公社】
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  1. 2006/09/22(金) 17:30:02|
  2. 宮脇俊三の話

プロフィール

もりくち

Author:もりくち
関西在住の鉄道マニア兼バックパッカー。「とれいん工房」として同人誌を多数発行。2001年に「鉄道未成線を歩く 私鉄編」、2002年に「鉄道未成線を歩く 国鉄編」をJTB出版事業局(現、JTBパブリッシング)から刊行しています。日々の話は、下のリンク先にある「とれいん工房の汽車旅12ヵ月」へ。連絡先はmalmori●nifty.com。

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