とれいん工房の鉄道省私文書館

鉄道関係の情報を中心としたブログ。主に未成線や廃線、鉄道史、宮脇俊三、関西の鉄道、ローカル線など鉄道趣味の外縁部を紹介します。

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【宮脇俊三と中公 その6】二百人以上の組合員との団交に一人立ち向かう

 ここに一冊、興味深い資料がある。中央公論社労働組合がまとめた『一九六八 年末闘争記録』という冊子で、三ヶ月に及ぶ団体交渉や労使協議会の発言が再録されている。その中で、会社側の交渉者として辣腕を振るっていたのが、あの宮脇であった。
 十二月二十三日、本社ビル七階の大ホールに二百三十人を越す全組合員と経営者側が集まる。嶋中社長が突然、辞意を表明。その後、心臓発作で帰宅。主を失い、議場が混乱している中、組合幹部は部長・局長クラスに自己批判を要求して怒号を繰り返す。何ら有効な策を打ち出せない会社側は次第に追いつめられていく。同時期に行われた大学紛争、あるいは中国の文化大革命を思い起こさせる風景だ。
 そうした突然の下克上と混乱の渦の中で、交渉の矢面に立たっていたのが、宮脇編集局長であった。

 組合幹部は出版や雑誌の方向性を決める編集会議の開催権を編集員側にも認めさせようと躍起になっていた。その要求を認めると、会社の運営方針それ自体が組合の管理下に置かれてしまいかねない。若い社員が吹っかける観念的な議論に対し、宮脇は、

「私は『努める』という方が、より積極的であると考えただけです。ことばとしては『尊重する』の方が直接的ですから、尊重しているようになると思いますけれども、『尊重する』では何か、やる気があるのかないのか、という感じがする」(『年末闘争記録』p.75)

と、とぼけた回答を繰り返す。いきり立つ組合側の虚をつく対応に、会場内から拍手と笑い声が巻き起こる。
 その後、専務や常務も倒れて経営陣が全滅したこともあり、二八日には宮脇が団交委員長の責に就くことになった。過去の出版物を巡る組合員たちの不満や愚痴をなだめすかし、会社組織の不備と意思疎通の不足を素直に認める。言葉足らずな弁解しかできない部長や幹部に助言し、堂々巡りを繰り返す議論を何とかまとめあげる。時には不在の社長に代わるような越権的な発言も行った。
 そして、三十日明朝、十六日間に及んだストを収束させていく。
 翌六九年、全権を委任された宮脇が再び交渉の窓口に立ち、労使が向かい合う経営協議会を取り仕切る。会社側の体制の不備、自主規制の問題を巡る討議は、いつしか「風流無譚」事件に対する嶋中社長の言説、そして粕谷『中央公論』編集長の発言を巡る責任追求の場になっていた。
 宮脇は、会社側の意向を無視して暴走する粕谷に手を焼きつつ、組合幹部の主張を骨抜きにした上で、会社側有利の妥協策を導き出す。組合有力メンバーの中村智子が評するように、組合の主張が観念的なものに終始したこと、そして「会社側の宮脇氏の政治的ねばり」(「『風流夢譚』事件以後」p.237)も大きかった。組合側も、穏健派と強硬派と無関心派に分裂してまとまらなくなっていた。
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 議事録を見ていると、宮脇ってこんなに饒舌にしゃべることができたんだと改めて驚かされる。「ボソボソ小声で話す」「やたらと皮肉っぽい」と評されることの多かった作家時代とは別な側面をみせられたような気がする。
 本人も「あとで聞くと、『宮脇のいっていることは、よくわからないし、声も小さいので、拍子抜けした。』とか『会社側にも老獪なヤツがいるんだなあ。やりにくい』とかいう評があった」(『途中下車』p.125)と回想している。そこには、結核の療養を余儀なくされて人生に絶望していた二〇代の頃の弱さはない。編集者としての十年あまりの経験と実績がひ弱な青年をここまで変えた。
 そんな彼を支えたのが、時刻表だった。心身ともすり減らしていく中で、「鎮静剤」になっていたという。いつ終わるとは思えない堂々巡りの議論が交わされる中で、一人、宮脇だけは鉄道旅行を夢見ていたのだろう。
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  1. 2006/12/13(水) 20:39:30|
  2. 宮脇俊三と中央公論社

プロフィール

もりくち

Author:もりくち
関西在住の鉄道マニア兼バックパッカー。「とれいん工房」として同人誌を多数発行。2001年に「鉄道未成線を歩く 私鉄編」、2002年に「鉄道未成線を歩く 国鉄編」をJTB出版事業局(現、JTBパブリッシング)から刊行しています。日々の話は、下のリンク先にある「とれいん工房の汽車旅12ヵ月」へ。連絡先はmalmori●nifty.com。

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