とれいん工房の鉄道省私文書館

鉄道関係の情報を中心としたブログ。主に未成線や廃線、鉄道史、宮脇俊三、関西の鉄道、ローカル線など鉄道趣味の外縁部を紹介します。

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【宮脇俊三と中公 その8】臣聞、古之君子交絶不出悪声、忠臣去国不潔其名

 宮脇の社内での位置づけも変わった。組合との妥結をみた六九年、取締役に就いている。だが、「体制の回復をはかるが失敗」(自筆年譜)して編集局長から開発室長に転じる。わずか四人の独立部隊である。ここでレコードの全集を企画するなど利益を優先した本造りを始める。
 七三年には中公文庫の創刊も行う。スタート時のラインナップには、隣人北杜夫の著作も並ぶ。もちろん、13年前に2人作り上げた「どくとるマンボウ航海記」も。北は8年前に新潮社から文庫本を出していたのに、さらに中央文庫からの発刊も認めた。現役作家としては異例のことである。各社がたくさんの文庫本を発刊している中で、中央公論社は後発として参入しなければならない。その陣頭指揮をとっている宮脇に対する気遣いと応援の意味があったと思う。

どくとるマンボウ航海記 どくとるマンボウ航海記
北 杜夫 (1973/01)
中央公論新社

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 ただ、そこで宮脇に求められたのは、本作りの職人としての才能ではなく、経営全般を見据えての組織運営であった。会社で出世していく過程でいつしか発想の転換をしなければならなくなる。だが、宮脇には魅力のある立場には見えなかった。
 自筆年譜にも、「仕事はマンネリとなり、情熱が薄れてきた。鉄道旅行に気持ちが移る。退社を真剣に考えるようになる」と自らを総括している。そこには、職人肌的な編集者として名声を欲しいままにしていた六〇年代の輝きはない。
 七五年の正月に踏破距離が一八、○〇〇㎞を超えると、国鉄完全踏破を目指すことになる。そして、七七年五月、足尾線間藤駅にて国鉄全線完乗を達成。その後、河出書房新社と旅行記の出版を約束する。
 七八年一月、常務取締役に就任するが、国鉄完乗後に「虚無感におそわれ」てしまい、すでに自分の仕事に情熱を見いだせなくなっていた。肝臓の数値が悪く、医者からは大好きな酒を止められていた。
 粕谷一希は『中央公論社と私』でそのころの宮脇を回想している。

中央公論社と私 中央公論社と私
粕谷 一希 (1999/11)
文藝春秋

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 彼自身、七八年三月での退社を決めていたのだが、辞表を出した直後の粕谷を呼び止めたのが宮脇常務だった。そこで宮脇も「じつは私も辞めることにしたんです」と漏らしてしまう。
 静の宮脇に、動の粕谷。出版部門の重鎮と『中央公論』のエース。性格も役割も異なるし、ストライキ騒動を巡る様々な局面で対立することも多かった。と同時に、二人で六〇年代の中公黄金時代を支えてきた。
 宮脇は「嶋中さんという人はしょうがない人ですね。高梨さんには一杯喰わされました。」と、「宮脇氏らしい台詞」(p.229)で会話を締めたという。
 こうして宮脇も、常務就任のわずか半年後の七八年六月末で退社する。この間、なにを思っていたのか。その不満な気持ちをぶちまけたい気持ちもあったようだが、最期まで会社や経営陣に対する言及を封印し続けた。『史記』「楽毅列伝」の「臣聞、古之君子交絶不出悪声、忠臣去国不潔其名」という言葉が頭を過ぎったのだろう(『史記のつまみぐい』p.84)。
 そして退社後の七月十日に『時刻表2万キロ』を刊行し、紀行作家としての後半生をスタートさせることになる。
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  1. 2006/12/15(金) 23:34:37|
  2. 宮脇俊三と中央公論社

プロフィール

もりくち

Author:もりくち
関西在住の鉄道マニア兼バックパッカー。「とれいん工房」として同人誌を多数発行。2001年に「鉄道未成線を歩く 私鉄編」、2002年に「鉄道未成線を歩く 国鉄編」をJTB出版事業局(現、JTBパブリッシング)から刊行しています。日々の話は、下のリンク先にある「とれいん工房の汽車旅12ヵ月」へ。連絡先はmalmori●nifty.com。

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