とれいん工房の鉄道省私文書館

鉄道関係の情報を中心としたブログ。主に未成線や廃線、鉄道史、宮脇俊三、関西の鉄道、ローカル線など鉄道趣味の外縁部を紹介します。

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【宮脇俊三と中公 その10 最終回】陳勝、忠臣の李斯、そして趙高

 ただ、宮脇も、中央公論社とそこで出会った人たちを忘れたわけでは決してない。
 国鉄関連の図書雑誌で有名だった中央書院という老舗出版社がある。近年、鉄道趣味人向けの出版にも力を入れるようになってマニアにも知られるようになった。 同社の社長だった故・竹森清氏。実は「風流夢譚」事件の時の『中央公論』編集長で、事件後、半ば追われるようにして会社を去っていった。そんな彼が奥様の実家の出版社を継ぎ、独立したばかりの宮脇と連絡を取り、自宅まで訪ねていったという。独立間もない宮脇の行く末を心配してくれたのだろう。「時刻表二万キロ」がベストセラーになった後、文春や新潮、角川など大手で仕事をするようになるまでの間、宮脇は同社の仕事をいくつかこなしている(後に『鉄道に生きる人たち』として単行本化)。
 一方、宮脇は、分割民営化の頃にも、同社でたびたび仕事をする機会があった。すでに紀行作家の大御所として名を知られていた宮脇がマイナー出版社で仕事をするメリットは少なかったと思う。ただ、国鉄の消滅で鉄道関連書の売れ行きが落ち込み、苦境に陥った先輩への恩返しの気持ちもあったのだろう。

鉄道に生きる人たち―宮脇俊三対話集 鉄道に生きる人たち―宮脇俊三対話集
宮脇 俊三 (1987/05)
中央書院

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 また、黒岩保美とのコンビで『青函連絡船ものがたり』などの絵本「月刊 たくさんのふしぎ」シリーズを出しているが、その発行元の福音館書店には、労使紛争の時に対立した組合員の武田や菅原啓州たちが移籍していた。
評論家として保守論断で活躍する粕谷一季とも接点を持ち続けた。紛争の時点で意見の相違はあったが、彼が主催していた雑誌『東京人』にもたびたび寄稿している。
 退社した七八年以降、宮脇は中央公論社と距離を置いてきた。だが、そこで培った人脈はけっして途絶えたわけではなかった。

 最後に、宮脇没後に出版された『史記のつまみぐい』を見てみよう。
史記のつまみぐい 史記のつまみぐい
宮脇 俊三 (2004/02/18)
新潮社

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 この作品では、司馬遷の『史記』を読み解き、王や奸臣、英雄、宦官たちのエピソードを紹介する。そうした二千年前の出来事と重ね合わせるように、宮脇は自らの中央公論社員時代の体験を振り返っている。
 秦始皇帝の亡き後、奸臣の趙高は、帝の長子を排して実権を掌握しようとする。忠臣の李斯はその口車に乗せられて同調してしまう。やがてそれを後悔して二世皇帝に讒言するものの、逆に処刑されてしまう。そして、秦は、陳勝らの反乱に遭い、やがて新興の項羽や劉邦たちに討ち滅ぼされていく。そうした事実に挿話を交えて淡々と語りながら、

「王侯将相、なんぞ……」の陳勝、忠臣の李斯、そして趙高の何十分の一かの要素が自分のなかで渦巻いたことを告白しておかねばならぬ。(p.41)

とコメントする。宮脇作品に馴染んできた私には意外な言葉である。
 だが、中公での失意から栄光、そして挫折の日々で、下克上となった全員団交の席で、常務取締役としての立場で、そして黄昏行く組織の中で、宮脇が何を見て、何を考え、何を求めようとしたのか。李斯や韓信の最期と自分の何を重ねていたのか。穏やかな文体とは違う激しい意識が見え隠れしている。それを踏まえて宮脇の著作を読み直してみると、また違う感慨を得ることができるかもしれない。

<主要参考文献>
宮脇俊三『私の途中下車人生』(講談社、1986)
JTB『旅』№884「特集 宮脇俊三の世界」(2000)
中村智子『風流夢譚事件以後』(田畑書店、1976)
粕谷一季『中央公論社と私』(文藝春秋、1999)
中央公論社労働組合『一九六八年末闘争記録』(1969)
竹森清君追悼集刊行委員会『いろいろあったなあ、竹森清追悼集』(中央書院、1996)
寺田博編『時代を創った編集者101』(新書館、2003)
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  1. 2006/12/19(火) 00:23:23|
  2. 宮脇俊三と中央公論社

プロフィール

もりくち

Author:もりくち
関西在住の鉄道マニア兼バックパッカー。「とれいん工房」として同人誌を多数発行。2001年に「鉄道未成線を歩く 私鉄編」、2002年に「鉄道未成線を歩く 国鉄編」をJTB出版事業局(現、JTBパブリッシング)から刊行しています。日々の話は、下のリンク先にある「とれいん工房の汽車旅12ヵ月」へ。連絡先はmalmori●nifty.com。

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