とれいん工房の鉄道省私文書館

鉄道関係の情報を中心としたブログ。主に未成線や廃線、鉄道史、宮脇俊三、関西の鉄道、ローカル線など鉄道趣味の外縁部を紹介します。

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宮脇俊三書評40作 (1)「時刻表2万キロ」

とりあえず、こちらのページでは、紀行作家・宮脇俊三の作品を紹介していこう。まずは「時刻表2万キロ


時刻表2万キロ 時刻表2万キロ
宮脇 俊三 (1980/06)
河出書房新社
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 「紀行作家宮脇俊三」を初めて世にアピールした本がこれになる。27年間勤めてきた中央公論社を辞した直後に同時に発売された。
 国鉄職員にとっても利用者にとっても「道具」に過ぎない時刻表を耽読し、さらに「時刻表に乗る」ために旅行へ出かけるという。常人には、いや鉄道マニアの多数派にとっても理解しがたい行動を繰り返しながらも、有無を言わせぬ筆致で読者を異世界へと引き込んでいく。とにかくページを捲ると、宮脇節のオンパレードである。冷静で博識で、それでいて皮肉っぽさと子供っぽさを兼ね備えたテンポの良さが気持ちよい。

 文庫本の解説とかで「宮脇独特の熟練したユーモアが……」とか書いてあるけれども、宮脇本の魅力はそんな陳腐な表現に留まるものではない。時刻表ローカル線に対するマニアックな知識をねっとりと披露すると思えば、旅のラスト部分をやたらとあっさり済ませたりする。
 宮脇紀行で特徴的なのは、時刻表示であろう。「4時50分富山着。」「6時58分、定刻に発車の警笛が聞こえた」「越美南線のこんどの上りは15時55分発である。」(第1章「神岡線・富山港線・氷見線・越美北線」より)といった表記がそれだ。
 そもそも時刻表は●時○分発、▲時▲分着……というデータが羅列しているだけの本であり、読み物となるべきものではない。その数字を本文中にあえて詳細に並べていくことで、時刻表に対するこだわりと愛情を表現しようとしている。

 それと同時に、テンポ良く積み重ねられた短いセンテンスの中で、時刻表記が物語のアクセントにもなっている。列車というものはその始まりから終わりまで全て時刻表に制約されている。出発と共に旅がスタートし、終着駅へ近づくことで突然終わる。鉄道に乗っている限り、ダイヤグラムから外れたハプニングはまずありえないし、意外性のある出来事も少ないだろう。
 そうした制約を逆手にとって、改行や場面転換の箇所には必ず時刻表記を挿入している。「ここから枕崎までの海岸は火山岩がゆるやかに海に流れ込み」(第3章)……と生き生きとした車窓の風景を描く合間で、「枕崎着7時47分。」と突然現実に引き戻す時刻表示。その唐突さが小気味よい余韻を残してくれるのだ。

 まあ、こんなのは序の口で、単なる鉄道ローカル線乗車記がいつの間にか血湧き肉躍る冒険譚へと変わっていく。鶴見線の支線に強引な鉄道法規の解釈でタダ乗りしたり、小松島港駅から南小松島駅までの近道を求めて港町をさまよったり、筑豊地区の各路線における絶妙な列車接続に感心してみたり、阿仁合線の車中で美人女子高生に胸をときめかしたり、札幌では空き宿が見つからずに独りでラブホテルに泊まる羽目になったり……けれども土産物を何も買ってこないから家族からの視線は冷たい。

 あれからもう25年ものの月日が流れた。冒頭に登場してきた神岡線も、「新型」と思いこんでいた富山港線72系旧型国電も、各地を走り回った夜行急行群も、最後の舞台となった足尾線も廃止され、国鉄という組織そのものが消え去った。
 宮脇の完乗行脚は76年から78年にかけて行われた。オイルショックによって高度成長が終焉を迎え、日本経済の先行きが不鮮明になろうとしていた時代である。モータリゼーションにより鉄道需要は大幅に減少し、国鉄本社は十億円近い赤字を計上し、ローカル線や貨物設備などの赤字部門が切り捨てられようとしていた。組合活動と事なかれ主義に終始した鉄道マン、政治に左右され続けた幹部職員、旧態依然した車両や設備。鉄道現場は混乱を極め、あらゆる意味で最悪な状況だったけど、国鉄の脳天気で前近代的な「お役所的」姿勢が妙な魅力を醸し出していた時代でもあった。それを懐かしむのも良いだろう。

 しかし、そんな懐古趣味的な楽しみだけで『時刻表2万キロ』を評価して欲しくない。編集者時代に培った膨大な雑学と観察眼。そして冷徹さと暖かさを詰め込んだ宮脇節が濃縮されている傑作。10万部を越える大ベストセラーになり、第5回ノンフィクション賞や第9回新評賞などマニア以外の世界から高い評価を得ることができたのは、鉄道旅行という趣味の世界に溺れることなく、時刻表という数字の世界の楽しみを伝えようとした真摯な態度が実ったからであろう。
 その魅力とエッセンスは今日においても十二分に通用する。時代を超えて文庫本のレーベルに継続して名を連ねているのはその証明であろう。

      【1978年 河出書房新社】
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  1. 2006/09/05(火) 19:21:33|
  2. 宮脇俊三の話

プロフィール

もりくち

Author:もりくち
関西在住の鉄道マニア兼バックパッカー。「とれいん工房」として同人誌を多数発行。2001年に「鉄道未成線を歩く 私鉄編」、2002年に「鉄道未成線を歩く 国鉄編」をJTB出版事業局(現、JTBパブリッシング)から刊行しています。日々の話は、下のリンク先にある「とれいん工房の汽車旅12ヵ月」へ。連絡先はmalmori●nifty.com。

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