「あんた、一番前がいいんだろう」と満場一致で薦められて、先頭車にお邪魔する。もちろん本来の役目である荷物持ちという大切な仕事もある。私の隣に実験道具の入った大きなカバン。そしてH先生、大御所K先生も同じ車両だ。4人も乗ればいっぱいになるサイズだ。
私を含む研究者9名、そして事務所のスタッフ2名を乗せると、特に合図もなく、機関車は動き出す。ゴトゴトゴトと渡り線に向かい、右へ曲がるとトンネルのポータルが見える。それを潜ればあとはひたすら暗闇の世界に支配される。


ホンモノの鉱山鉄道に乗るのはもちろん今日が初めてである。自然と顔がほころぶ。あまりにも嬉しそうな顔をしていたのだろう。K先生が何か冷やかしの言葉をかけてくる。ただ、ガタガタと騒音が激しくて会話はままならない状態だ。
2、3分してようやく目が慣れた。途中でポイントがあり、右に分かれていく支線を確認できた。カミオカンデの研究室へはここの線を利用するらしい。
それからさらに暗闇に覆われたトンネルの中でひたすらトロッコの振動に揺らされ続ける。当然ながら景色は何も見えない。
坑口から20分ほどして、スピードが急に緩みだした。ようやく終点に到着した。
研究者グループを降ろすと、トロッコは右方向へ分かれる坑道へと進んでいく。そこに引込線があり、われわれが帰ってくるまで待っていてくれるのだ。
さて、僕たちはトロッコから降りて、そこからさらに奥へ歩くことになる。照明が煌々と坑内を照らし出し、アスファルトに埋め込まれたレールが水滴で浮かび上がっている。この付近は今では使用を停止しているようだ。
この先での排水を採取する実験に関しては省略。1時間ほど坑内を調査で歩き回った後、先ほどのトロッコのところへ戻り、再び20分ほど揺られて事務所へ帰った。
そんな望外の鉄道趣味体験をしてから10年近くたった。
その後、茂住坑で採掘が再開されるが、鉱石輸送はトラックで行われている。採掘は2001年で終了。今では事実上閉山した形になっている。私は、1999年にも神岡鉱業の立入検査に再び参加しているが、その時はバスで入坑し、トロッコに乗車する機会はなかった。
現在、亜鉛工場は鉛リサイクル事業に使われている。回収された使用済みバッテリーを破砕し、そこに含まれる物質を希硫酸や鉛、プラスチックへと再生させるというのがその主な内容で、神岡鉱業の主力事業となっている。イタイイタイ病の発生源として知られた神岡鉱山で環境対策のリサイクルシステムが構築されているのだ。
カミオカンデの見学ツアー、ジオスペースアドベンチャーは継続して開催されているが、跡津川坑口からバスで出入りするようになった。一時期は坑内でトロッコの体験乗車もできたが、脱線事故があったとかで数年前から中止されているらしい。
今でも坑内の管理のためにトロッコは生きていると思うが、部外者が乗車するのは極めて難しい状況になったと思われる。今はどうなっているんだろう。
- 2007/02/08(木) 14:02:54|
- 未成線・廃線の話
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