とれいん工房の鉄道省私文書館

鉄道関係の情報を中心としたブログ。主に未成線や廃線、鉄道史、宮脇俊三、関西の鉄道、ローカル線など鉄道趣味の外縁部を紹介します。

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宮脇俊三書評40作 (2)「最長片道切符の旅」

最長片道切符の旅 最長片道切符の旅
宮脇 俊三 (1979/01)
新潮社
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 中央公論社の退社、『時刻表2万キロ』の刊行が行われた78年の秋。新潮社から依頼を受けて北海道広尾広尾駅から鹿児島県指宿枕崎枕崎駅まで延長13、319・4キロを旅した記録をまとめたのが本書である。
 最長片道切符(一筆書き切符)とは、同一区間・同一駅を経由しないで作成した片道切符の中で最も長い距離を有する切符のことを指す。当時22、000キロあった国鉄全線の6割方を連続して乗車する計算になる。
 この切符自体は種村直樹の『鉄道旅行術』(当時、日本交通公社)でお馴染みになった感もあるが、一ヶ月以上旅を続けなければ全区間踏破することが難しいこともあって、時刻表マニアのための机上での算術的お遊びと見なされてきた。この難題に、編集業から退いてライターとして独立したばかりの宮脇が臨んだわけである。

 退職して初めて壮大な自由を手に入れたというのに、「自由は、あり過ぎると扱いに困る。」とぼやく宮脇。ありあまるスケジュールと白地図に制約をかけるために、あえて「一筆書き」という条件を付け加えたのだ。高度成長期を経たモーレツ社員たちが、退職後、目標を喪失して当惑する姿と何か似通ったものを感じてしまう。

 10月13日に広尾駅を出発し、帯広から富良野、旭川、北見、池田、厚床、中標津、網走……と道内をぐるぐると回って6日目に東北へ上陸。そして、岩手県→秋田県→山形県→新潟県→またまた秋田県→山形県→秋田県→岩手県→宮城県→福島県→茨城県→福島県→茨城県と行ったり来たりしながら関東平野の通勤路線網を潜り抜け、豊橋まで向かう。なのに、飯田線経由で群馬、新潟まで戻って、さらに中央西線経由で紀伊半島を一周した後で再び北陸に向かって……
 とまあ、途中、8度の中休みを挟みながら、切符の裏面に記された経由地に従って何かに取り憑かれたように終着枕崎駅へ向かう。

 普通、この手の横断旅行には「シルクロードのオアシスを訪ねて」だの「国鉄ネットワークの記録」だののお題目がとってつけたように語られるのだが、この本にはそんな大層な目的はない。ただ、「単に目標を達成したいから最後までやる」という趣味の本筋を剥き出しにしたただけの旅が綴られている。
 ただ、「国鉄路線の一筆書き旅行」。同業のマニアなら驚嘆の声と共に喜んでもくれるだろうが、世間の皆様にはあまり誇れるような旅ではない。前人未踏の大冒険ってノリで迎えられることは絶対にないし、どちらかと言えば、奇人変人の扱いをされかねない。事実、旅の途中、最長片道切符を検札した多くの国鉄マンたちはほとんど反応を示さなかったという。

 で、内容という、ただ黙々と切符のルート通りに旅を続けるだけ。日本シリーズでのヤクルト足立投手の力投に一喜一憂し、同席した女子高生ウオッチングに興じ、マツバガニの匂いに揺れ動く微妙なオヤジ心。
 この手の旅行を記した文書って、得てしてルートの説明に終始して味気なくなるものが多いけど、それを逆手にとって、切符ルートへの異常な執念を全面的に打ち出すことに成功している。豊橋から岐阜まで100キロほどの区間を行くのに、なぜ長野や群馬、新潟、和歌山、滋賀と大回りしながら6日間ものの時を費やさねばならないのか。50歳を越えたオジサンがなぜこんなに一生懸命なのか。「しかし阿呆らしさもここまでくると、かえって厳粛な趣を呈してくるかに私は思うのだが。」(16日目 八王子~飯田)との悟りにも近い、ため息にそれが如実に表れている。
 高校鉄研時代、この本を後輩の女の子に課題図書として読むように勧めたことがある。次の週に返してくれたときの「この人が何でこんなに一生懸命なのか最後までよく分からなかったけど面白かった。なんか、カワイイ。」とのコメントが印象深かった。そんな彼女は宮脇に感化されて高校一年生の夏に北海道へ友達と2人で行ってしまい、進学先も北海道大学を選んでしまった。ある意味、罪造りな本になったわけだ。
 ちなみに、私が初めて読んだのは小学3年生の時。第12日目の項(我孫子~松岸~千倉~西船橋)がやたらと気になった。本文に登場してくる小学2年生の娘さん(宮脇理子さん 年齢は私の一つ上になる)が羨ましかったのだ。
 ともあれ、作家・宮脇俊三が本格的に活動を始める最初の旅であったことも含めて注目しておきたい作品である。
 
         【1979年 新潮社】
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  1. 2006/09/05(火) 19:27:31|
  2. 宮脇俊三の話

プロフィール

もりくち

Author:もりくち
関西在住の鉄道マニア兼バックパッカー。「とれいん工房」として同人誌を多数発行。2001年に「鉄道未成線を歩く 私鉄編」、2002年に「鉄道未成線を歩く 国鉄編」をJTB出版事業局(現、JTBパブリッシング)から刊行しています。日々の話は、下のリンク先にある「とれいん工房の汽車旅12ヵ月」へ。連絡先はmalmori●nifty.com。

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