とれいん工房の鉄道省私文書館

鉄道関係の情報を中心としたブログ。主に未成線や廃線、鉄道史、宮脇俊三、関西の鉄道、ローカル線など鉄道趣味の外縁部を紹介します。

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宮脇俊三書評40作 (4)「時刻表おくのほそ道」

時刻表おくのほそ道 時刻表おくのほそ道
宮脇 俊三 (1984/01)
文芸春秋

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 好評を博した『時刻表2万キロ』のローカル私鉄版。
 ただ、前作と根本的に異なるのは、宮脇作品では初めて同行者が登場したことである。文藝春秋『オール讀物』編集部の名取昭氏、その後任の明円一郎氏。双方ともマニアではないけど、マスコミ業界にしては珍しく鉄道趣味に対する関心も持ち合わせている。宮脇「芭蕉」と鉄道説法を繰り返す中で、見事な「曾良」ぶりを演じている。

 文豪のエッセイだと、阿川弘之における北杜夫や遠藤周作、あるいは内田百におけるヒマラヤ山系氏などなど、エピソードを盛り上げるボケ役がいろいろ登場してくる。
 けど、宮脇さん。あまり大先生らしくない。豪華列車に乗るのでもなく、大旅館に泊まるわけでもない。国鉄完乗とか最長ルート踏破とかの世界観を支配する使命感もなく、ただただ地味な地域の弱小私鉄に乗るだけの旅を繰り返す。

 こうした鉄道のほとんどは「地方の片隅で、貧しく汚く、しかし赤字に堪えて頑張っている小さな鉄道」(三菱石炭鉱業大夕張線)ばかり。わざわざ乗りに行っても、鉄道社員と鉄道マニアばかりで「まともな客は、一人も乗っていないのであった。」(別府鉄道)ってところもあるぐらい。

 興味深い苦労話を集めて、「一生懸命頑張っているんだ」とまとめるのは簡単だと思う。事実、本書で取り上げられた27社はいずれも経営的に苦しいところばかりで、その後20年の間に13社が旅客営業を取りやめている。現実は厳しいのだけど、そうしたエピソードはしばしば紀行作家が触れる現実をも凌駕する。そうした苦労話は宮脇の語り口とはまた別種のものである。
 だからこそ、対象から距離を保って、いかに新鮮に見つめることができるのか。そこに作家の勝負がかかっている。この作品では、そうした不揃いのリンゴたちに対する冷徹な描写と温かい視点が見事に交錯している。
 私が好きなのは、加悦鉄道の項。予定していた下津井鉄道の列車に乗り遅れた関係で、福知山から加悦駅までタクシーで向かわねばならなかった。焦る編集部の明円氏。その混乱自体を楽しむ宮脇。与謝峠を越えて長いトンネルを抜けると、眼下に加悦谷が広がる

 だが、なんという暗い全景であろうか。暗澹たる厚い冬雲と夕露、その下に加悦の家並が淡墨色に沈んでいる。太陽に見捨てられたかのような「うらにし」の世界である。旅の感動のようなものがこみあげてきて、
「下津井電鉄に乗り遅れてよかった」
と私は思わず言った。

 そして、同社常務の大内光一郎氏と共に加悦駅の古典車両群を見て歩いた後、おんぼろディーゼルカーで丹後山田駅(現・野田川)へ向かうのだが、そこには計算外のオチが待ち受けていたのである。盛り下げるような表現を羅列しながら、最後のところで強引に場面転換を行い、読み手に余韻を与える……宮脇演出の極みがここにあると思う。

 最後に取り上げるのが岳南鉄道というのも心憎い。鉄道貨物に興味がない限り、これと言って見るべきものは何もない。マニアの間でもほとんど話題にならないマイナーな会社である。
 終着の岳南江尾駅は14時42分発。わずか1分後の43分には折り返してしまう。ただ、この駅。確かに、宮脇の語るように
「行くところも、することもない」
「中途半端な終着駅」
である。なんか紀行作家らしくない表現ばかり書き連ねている。これを読んで岳南鉄道に乗ろうという人間はまずいないだろう。だが、それこそが宮脇節の真骨頂である。何もないところを褒めちぎって水増ししていくガイドブックとは根本的に違う発想がそこには描かれている。個人的には、宮脇作品のベスト3に入れておきたい作品だ。

         【1982年 文藝春秋】
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  1. 2006/09/05(火) 19:59:53|
  2. 宮脇俊三の話

プロフィール

もりくち

Author:もりくち
関西在住の鉄道マニア兼バックパッカー。「とれいん工房」として同人誌を多数発行。2001年に「鉄道未成線を歩く 私鉄編」、2002年に「鉄道未成線を歩く 国鉄編」をJTB出版事業局(現、JTBパブリッシング)から刊行しています。日々の話は、下のリンク先にある「とれいん工房の汽車旅12ヵ月」へ。連絡先はmalmori●nifty.com。

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